昔々あるところにとても寂しがりやな女の子がいました。
女の子の家には父親がいませんでした。
しかし、物心つく頃にはもう「おじさん」と呼ぶ人が家の中にいました。そして、女の子は母親に嫌われたくない一心でそのおじさんと仲良くするフリをしていました。
週末だけ訪れるそのおじさんのことを、女の子は実は嫌いでした。母親をとられるような気がしたからです。
小学校に入ると、女の子は仲間を見つけました。女の子と同じような境遇のその子は、友達の前では常に明るくふるまっているつもりの自分よりももっと明るい子でした。でも、彼女には頼れる兄がいました。女の子は、自分のことをよく考えてみました。私には兄弟がいない。女の子は兄弟が欲しいと思い、七夕の短冊に「かわいい妹が欲しい」と書きました。
1年後、女の子は表面上はおじさんと仲良くしているつもりでしたが、ある夜、衝撃的な場面を目撃してしまいました。まだ8歳にもなっていなかった女の子は、何がなんだかわかりませんでしたが、それが受け入れがたいことだということだけはわかっていました。
翌年、女の子には念願の兄弟ができました。
女の子は、喜びました。しかし、同時に複雑な思いも持っていました。
複雑な思いを抱えたままの女の子は、だんだん自分が意地悪になっていくのを感じていました。自分のたった1人のかわいいはずの弟に、嫉妬をするようになりました。女の子がいくら望んでも手に入れることができないものを、弟は持っていたのです。
母親に隠れて弟に八つ当たりするようになった女の子は、心を痛めながらも自分の行動を止めることができませんでした。
女の子の弟も、彼女の仕打ちによって心に深い傷を負いました。そのことに気付きながら、かわいそうと思いながら、彼女は八つ当たりし続けました。どうしようもない孤独に呑み込まれそうで恐くて仕方がなかったのです。
ある日、母親と口論になった女の子は、母親から自分が望まれて生まれた子供ではないことを聞かされました。女の子はそれなりにショックを受けました。そして、自分より「劣っている」と思い込んでいた弟は「望んで」生まれたことも同時に聞かされました。
女の子は気付いていました。その事実を認めたくなかっただけでした。